LOGIN練習場の別の隣接した一角には、瞑想や精神統一のための静かなスペースが用意されている。柔らかなカーペットが敷き詰められたこのエリアでは、心を落ち着かせるための穏やかな音楽が静かに流れ、瞑想を通じて魔法の集中力を高めるのに最適な環境が整えられている。空気はひんやりとしており、心が洗われるような清らかさを感じた。
また、戦闘技術を鍛えるためのエリアも充実しており、ここでは剣術や弓術の訓練が日々行われている。木製のダミーや標的が整然と並び、訓練者たちは実際の戦闘を想定しながら、汗を流して技術を磨くことができる。木製のダミーには、剣や矢が何度も打ち込まれた跡が生々しく残っていた。
壁際には、魔法や戦闘技術に関する貴重な書物が収められた重厚な本棚がずらりと並んでいる。古代の魔法書や最新の研究書が所狭しと並べられており、中には貴重で危険な魔法などが記載されているために、通常の書庫には置かれていない秘匿性の高い書物も含まれる。これらの書物は、王族たちが魔法の理論や実践を深く学ぶための貴重な資源であり、その知識は彼らの力を一層高める上で不可欠なものだった。
王族専用の屋内魔法練習場は、単なる訓練施設ではなく、魔法の伝統と歴史が息づく、王族の力と知恵を育む神聖な場所なのだ。ここで訓練を受ける王族たちは、魔法の力を身につけるだけでなく、その力に伴う責任と重みをも学ぶことになる。
団長の顔つきが真剣なものへと変わり、ゆっくりと魔法を放つ場所まで移動すると、的の方へと片腕を伸ばした。その腕の先には、微かな魔力の輝きが宿っている。詠唱を始めると、団長の手のひらの先に小さな赤い魔法陣がぼうっと浮かび上がり、その中心に赤い小さなゴルフボール大の炎が現れた。炎は瞬く間に勢いを増し、シュッと音を立てて的へとまっすぐに放たれた。
バシュ!っと小気味良い音を立てて的へ正確に命中させた炎は、一瞬の閃光と共に消え去った。
レイニーは、その見事な魔法に「わぁ!」と歓声を上げ、ぴょんぴょんと小さく跳ねて喜びを表現した。その顔には、純粋な感動と、魔法への強い憧れが浮かび上がっている。それを見た団長は、レイニーの反応に満足したのか、嬉しそうな表情をしていたが、やがて徐々に真面目な顔つきへと戻っていった。
「さぁ、レイニー様とルナ様の番ですぞ」
団長は、二人に優しく、しかし確固たる声で声を掛けた。
「あの……わたしは、半分の距離の場所で……お願いします」
ルナは、恥ずかしそうに頬を染めながら、端の方にある距離が半分の可動式魔法練習スペースへと歩いて移動した。その足取りは、ややぎこちない。
「的に正確に当てる練習なので、当たる距離に移動していただいて構いません。徐々に距離を伸ばしていきましょう」
団長は、ルナの配慮を理解したように、優しく助言の言葉をかけた。レイニーが、ルナの方をじっと観察していた。ルナも片腕を伸ばし、小さく詠唱を唱え、魔法を放った。団長と比べると、その炎は小さく、頼りなく、的へ向かう途中で少し揺らめくように見えた。それでも、的に当たると霧散して、キラキラと光の粒となって輝き消えていった。
ルナが、その結果に「わぁ!」と小さな声を出して喜んでいた。その笑顔は、達成感に満ち溢れていた。「ルナが喜んでいるということは、的に届かないか外すことが多いのかな?」とレイニーは、ルナの純粋な反応を見て、そう推測した。
♢才能の片鱗初の魔法で、レイニーは胸中にごくわずかな緊張を覚えていたが、実際に魔法を撃てると確信した途端、好奇心と喜びの方がはるかに勝っていた。
「次は……俺の番かな。えっと……腕を構えて……」
レイニーは、ブツブツと動作を声に出して確認していたが、途中で困った表情になった。そう、レイニーは詠唱を知らないのだ。
「え、えっと……どうすれば? 俺、詠唱を知らないんですけど……」
とは、今更団長に言えるわけもなく、レイニーは咄嗟にアニメやゲームの知識を思い出した。
レイニーは目を閉じ、魔力の流れをイメージした。体の中心から手のひらに魔力が集まっていく感覚がはっきりと感じられた。それから、魔法、ファイアショットのイメージを強く心に描き、ゆっくりと目を開けると、手のひらの前に鮮やかな赤い炎の球体が現れた。さらに、その炎で的を撃ち抜くイメージをすると、バシュ! と力強い音を立てて炎が放たれ、的に命中するや否や、それを貫通させ、後方の壁にボフッという音を立てて消えた。
レイニーは、単に的に当てるイメージだけでなく、それを撃ち抜くイメージまでしていたため、魔法の威力が想定以上に強力になってしまっていたのだ。
「れ、レイニー様!?」
団長が、驚愕に目を見開いて声を上げた。その顔には、信じられないものを見たかのような表情が浮かんでいる。
その岩の割れ方は、まるで誰かが強大な力で割ったようだった。こんなパワーを持つ人間を見たことも聞いたこともない。もし、そんな人間がいたら軍が見逃さずにスカウトしているだろうし。それか、冒険者の中にいるのかもしれない。レイニーは、その圧倒的な力に想像を巡らせた。「ここから入れそうだよ?」 エリゼがニコッと言ってきた。さすが、冒険者志望だね。しかも責任回避をして俺に行かせようとしているしぃー。俺なら何でも許されると思っているのか? 今のところは許されているけどさ〜♪ レイニーは、エリゼの行動に、面白さと、わずかな呆れを感じた。 まあ、こんな面白そうな所を見つけたら、誘われなくても行くでしょ。「一緒に行く?」 レイニーは、エリゼならついてくると分かってて笑顔で聞いた。「……うぅ……こんな所で、わたしを一人にするの?」 エリゼがレイニーの服をそっと掴み、不安そうに見つめてきた。その瞳には、心細さが滲んでいる。「エリゼなら大丈夫じゃない?」 レイニーは、エリゼの反応が可愛くて……ついついイジワルなことを言ってしまう。「いやぁ。大丈夫じゃなーい。一緒に行くぅー!」 可愛い頬を膨らませたエリゼが言ってきた。「だよねぇ〜」「うん♪」 二人で顔を見合わせて頷き、ニコッと笑った。このパーティでは、エリゼが止める役だったが、俺と一緒にいることで影響を受けてしまっていて、今では止める人がいないので危ないかもしれないな。レイニーは、今後のエリゼとの冒険に、若干の不安と、それでも期待を抱いた。♢洞窟の探索 洞窟に足を踏み入れると、まず湿った空気が肌にまとわりついてくる。冷たく湿った石の壁には、所々に苔が生え、ゆっくりと滴り落ちる水滴の音が洞窟内に響き渡る。洞窟内は薄暗く、アイテムボックスから取り出した松明の明かりがぼんやりと前方を照らす。壁に空いた亀裂や足元の不規則な石の配列が、ここが自然の力でできたものであることを物語っていた。その光景は、
軽食を摂り、少し元気が出たのでアイテムボックスから剣を取り出しエリゼにも渡した。実力は少年兵よりは高いから、少しは頼りになると思う。……お遊び程度の魔物しかでてこないと思うけど。この辺りの魔物の反応が、低級の魔物の反応しか無いし。これなら二人で楽しみながら山頂に向かえるかなっ。レイニーは、山の気配を探索し、状況を判断した。「さー、出発しよー♪」「はぁいっ!」 エリゼは、元気いっぱいに返事をした。 小さい魔物が現れると、二人で顔を見合わせてニヤッと笑った。「どうする? エリゼも戦いたいんじゃない?」「わたしに倒せるかなぁ〜?」 エリゼはそう言うけど、顔が笑ってるじゃん。しかも剣を構えてるし……。レイニーは、エリゼの興奮を感じ取った。「どーぞー♪」「……う、うん。えいっ!」 エリゼは、シュパッ!と剣を振り下ろし、一撃で魔物を討伐できた。その剣筋は、見事なほどに鋭い。「わぁーい! 倒せた! ねえ、見た?見た?」 エリゼは嬉しそうに振り返り、満面の笑顔で聞いてきた。昨日の森とは雰囲気が違い、不気味な雰囲気もないし。その瞳は、達成感に輝いている。「うん。余裕そうだね〜!」 というか、さすがセリオスの娘で剣の扱いが慣れていて剣がぶれていないし、剣のスピードが早い。レイニーは、エリゼの才能に舌を巻いた。「まぐれだよー」 エリゼは謙遜してるけど、日々の訓練の成果だと思う。これだと、俺の出番が無くても良いのかもなぁ〜接待の魔物の討伐だなぁ。日頃の感謝の気持を込めて、エリゼに付き合おう♪ レイニーは、エリゼの成長を喜び、温かい気持ちになった。「次は、お兄ちゃんね!」「俺は、帰りで良いよ〜。二人で疲れちゃったら、強敵が出た時に困るでしょ〜」 エリゼが楽しそうだったので、今は遠慮しておこうかな。レイニーは、エリゼに花を持たせることにした。「あぁ〜そっかぁ。わかった! 行きは、わたしが頑
「はいっ! もちろんですっ♪ おとーさまっ」 レイニーは、そう言いながら国王に駆け寄り、抱きついた。それで、甘えておこうっと♪ 国王の服の感触が、幼い体に心地よい。「うむ。だが、キケンなことはするでないぞ!」 抱きつかれて、苦しそうな声を上げる国王の声が鳴り響いた。その声には、レイニーへの愛情と、それでも厳しさを教えようとする親心が感じられる。「はぁーい!」 レイニーは元気に返事をして、しばらく甘え続けて部屋に戻った。♢山への道のり ……翌日。 早朝から用意をしておいた馬車に乗り込み、エリゼと馬車で山へ向かった。 ちゃんとした送迎用の馬車で、王国の紋入りではなく普通の一般的な送迎用の馬車だ。一般人は……馬車には乗らないけどね。「わぁ! ちゃんとした馬車なんて初めて!」 エリゼが窓の外を眺めて、嬉しそうに声を上げた。前回乗ったのは兵士を護送するタイプの馬車だったしね。その瞳は、新しい体験に輝いている。「あはは……たぶん……10分もすれば具合が悪くなると思うよ……。この直に来る振動に揺れがキツイんだよね」 レイニーは、経験からくる予感を語った。「えぇ〜楽しいじゃん♪」 エリゼが、左右の窓に行ったり来たりして楽しそうに過ごしていた。その無邪気な姿に、レイニーは頬を緩めた。 …………。 ………………「あ、あぅ……」とエリゼが声を上げた。馬車が道に転がっている石に乗り上げ、たまに大きな振動が直におしりと腰にくる。その衝撃は、馬車全体を揺らし、乗員の体を突き上げた。 ………………。
「そうかな? 魔物がよく現れるらしいよ」 レイニーは、あくまで冒険者ごっこにこだわる。冒険者ごっこなら……魔物と戦えればいいと思うけど? もう目の前だしぃ……。山に行くのは明日でいいじゃん。「うん。そんな感じがする……不気味だし、入ったらダメな気がするよ……」 エリゼが怯えた表情で言ってきた。その声には、強い拒絶感が滲んでいる。 せっかく苦労して辿り着いたのに〜勿体ないじゃん。レイニーは、少しばかり残念に思った。「少し進んでみようよ。それで、ヤバそうだったら引き返そー♪」 レイニーは、エリゼを説得しようと提案した。「えぇ……うん。わかったっ」 レイニーの押しに押されて、エリゼは仕方なさそうに返事をした。その声には、諦めと、それでも兄への信頼が混じっている。♢森の奥へ 普通の森とは違い、不気味で薄っすらと靄がかかっている。魔物の住む不気味な森は、昼間でも薄暗く、どこか現実離れした雰囲気を漂わせている。森の中に一歩足を踏み入れると、魔物のテリトリーに入った感覚を感じた。すでに、あちらこちらに小物の魔物が彷徨いているのが見える。 湿った土の匂いと腐葉土が混ざり合った独特の香りが鼻をつく。木々は異様な形をしており、曲がりくねった幹やねじれた枝があたりを覆い、まるで生きているかのように感じられる。その光景は、レイニーの好奇心を刺激した。 風が吹くたびに葉がざわめき、不気味な囁き声のように聞こえる。苔むした石や木の根元には、奇怪なキノコや見たこともない植物が生えており、その中には毒々しい色をしたものもある。地面には生き物の足跡が点々と残っており、その形がどれも一様ではなく、何か恐ろしいものが潜んでいることを示唆している。その雰囲気は、エリゼの恐怖を煽った。 魔物の存在は確実だったので、結界を自分とエリゼに張り、歩みを進める。念のために害意を感じると、自動で反撃するように魔法を複数発動準備をさせておいた。頭上には複数の小
「あー助かるよ。借りてくね〜♪ あ、でも……借りた剣は、ちょっと……ここまで返しにこれないから……そうだ! セリオスに渡しておくから取りに来てくれる?」 レイニーは借りた剣を受け取り、城に帰ったらエリゼを送り届けた時に、剣も渡しておけば返してくれるでしょ、と内心で思った。「……へ? え? いやいや……セリオス様って……騎士団長のですよね?」 副所長が、顔色を悪くしていた。今更って感じだと思うよ、その娘のエリゼの扱いも雑だったし〜。レイニーは、副所長の反応に内心で呆れた。「そうそう」 レイニーは、あっけらかんと言った。「レイニー様、普通の一般兵が、セリオス様とお話をするのは厳しいかと……」 副所長が俯き呟いた。そうかな……今は、一般兵の練習を見てるけど? まあ……周りは凍りついた様子になってたが。レイニーは、副所長の言葉に首を傾げた。「じゃあ、王城の警備部隊に預けておくよ〜」「はい、それなら問題ないです」 副所長がホッとした顔で返事をした。その表情からは、安堵の色が読み取れる。「それと……女性の事務作業員も解雇ね。仕事もせずに楽しいお話で給金を不正に得ていたんだから……あ、それもお父さまに任せるから良いか。俺よりも、厳しい罰を与えると思うから……じゃあね〜」 それを聞いた女性職員が、青褪めた顔をして座り込んだ。その顔は、絶望に染まっていた。 ま、自業自得でしょ……所長の権力で従わされていたとしても、給金は税金で支払われてるんだしさぁ。レイニーは、冷徹にそう判断した。「エリゼを呼んできてくれる? 出掛けるからぁ〜♪」 兵士たちが慌ただしく動き出し、相手はセリオスの娘だと知
「あぁ……これ」 レイニーは、そう言い、チラッと国王の紋章の入ったナイフを見せると、警備隊長が慌てて跪いた。その動作は、まるで機械仕掛けのようだった。「あ、それは良いから……エリゼの護衛を部下の人に頼めるかな?」 出入りの多い、詰め所の前だったのでエリゼを放って置くと連れ去られたら困る。レイニーは、エリゼの安全を最優先に考えた。「はっ! かしこまりました!」 警備隊長は、震える声で答えた。 エリゼが警備兵に囲まれ、応接室へ連れて行かれた。勝手に応接室を使われて、所長はムスッした表情で近寄ってくると文句を言い始めた。その顔は、怒りで歪んでいる。「城門の警備隊長だから多めに見ていたが、許可なく勝手に応接室を使うとは……無礼だぞ、俺たちは王都の警備部隊所属で別の管轄だぞ! あとで厳重に王都警備隊長に報告し、文句を言ってもらうからな!」「あーそれは、出来ないと思いますけど〜?」 レイニーが、後ろで腕を組みそっぽを向いて、二人の会話に口を挟み元所長に言った。その声には、どこか冷たさが混じっている。「……なんだクソガキ、まだいたのか!? 子供の口出しする話じゃないぞ。おい! 副所長、このガキを外に放おり出せ! 邪魔だ!」 所長は激怒した表情で、顔に血管が浮き出ているって……こんな感じなんだろうなぁ……という表情をしている。その怒声は、詰め所全体に響き渡った。 レイニーと隊長の話を聞いていた副所長は、堂々と無視をした。その顔には、迷いと、それでもレイニーへの警戒が読み取れる。「おい! 聞こえんのか!? 俺は、ガキをつまみ出せと命令をしているんだぞ! 上官からの命令無視は、厳罰だぞ! 貴様! 命令だと言っているだろ!」 所長の声は、怒りで震えている。「だよね。命令無視は厳罰だよね……? 警備改革を無視して改善が出来てないんじゃないの? 王都警備隊長